エクソソームの脊髄損傷に対する効果

MSCエクソソーム

エクソソーム治療は、将来期待されている、新規治療法の一つですが、現在は、研究段階にあります。

基礎研究、臨床研究を経て、有効性が確認された場合にのみ、保険診療での治療が提供されることになります。

今回は、その最初のステップである、動物モデルを使って、エクソソームの脊髄損傷に対する治療効果を検証した論文となります。 エクソソームは、幹細胞治療研究で最も使用されている、骨髄間葉系幹細胞由来のものとなります。 

それでは、早速見ていきましょう。

今回紹介する論文 

Nakazaki, M., et al., 2021. Small extracellular vesicles released by infused mesenchymal stromal cells target M2 macrophages and promote TGF-beta upregulation, microvascular stabilization and functional recovery in a rodent model of severe spinal cord injury. J Extracell Vesicles. 10, e12137.

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解説動画;

簡単に説明すると

  1. 骨髄間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSC-sEVs)は、MSC細胞治療と同等の治療効果を脊髄損傷に対して有している。
  2. MSC-sEVsの静脈内注入は、損傷部位に輸送され、M2マクロファージと結合することにより、脊髄損傷モデルの機能回復を改善します。
  3. MSC細胞単回注射と同様の治療効果を得るには、MSC-sEVsを3日間にわたって分割投与する必要があります。エクソソームの単回投与では、エクソソームが病変部に取り込まれずに、大部分が排出されてしまうためです。
  4. MSC細胞では、エクソソームが時間の経過とともに放出され、機能回復の改善につながる一連の細胞反応が起こります。エクソソーム分割投与によって、同様の反応が誘発されることが示されました。

言葉の説明

骨髄間葉系幹細胞

骨髄間葉系幹細胞(Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells)は、骨髄の中に存在する特殊な細胞の一種です。これらの細胞は、多機能性を持っており、骨、軟骨、筋肉、脂肪、結締組織など、さまざまな種類の細胞に分化する能力があります。

骨髄間葉系幹細胞の主な役割は、体内で損傷や老化が起こった際に、必要な細胞を生み出して損失を補うことです。また、免疫調節機能や抗炎症作用も持っており、体内の炎症を抑えたり、免疫系のバランスを保つ役割も果たしています。

近年、骨髄間葉系幹細胞は再生医療の分野で大変注目されており、研究が進められています。将来的には、様々な病気や損傷の治療に役立つことが期待されています。

エクソソーム(exosomes)

エクソソーム(exosomes)は、細胞が分泌する非常に小さなサイズの細胞外小胞(約30-150ナノメートル)で、細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。エクソソームは、細胞の中にある内膜系から生成され、細胞外に放出されます。

エクソソームの内部には、タンパク質、リポ蛋白、脂質、糖類、および核酸(DNAやRNA)など、多様な生物学的分子が含まれています。これらの分子は、エクソソームが他の細胞と情報を共有するための「メッセンジャー」のような役割を果たします。エクソソームがターゲットとする細胞に取り込まれることで、受容細胞の機能や運命が変化することがあります。

エクソソームは、免疫調節、細胞増殖、細胞死、および炎症など、さまざまな生物学的プロセスに関与しています。また、近年では、エクソソームががん細胞の増殖や転移に関与していることが明らかになってきており、がん研究の分野で注目されています。

エクソソームは、再生医療や診断ツールとしての可能性も秘めています。エクソソームを利用した治療法や、エクソソームに含まれる生物学的分子を診断マーカーとして利用する研究が進められています。

M2マクロファージ

M2マクロファージ(M2マクロファージ、M2 macrophages)は、免疫システムの一部である白血球の一種で、マクロファージの中でも特に組織修復や抗炎症作用を持つタイプの細胞です。マクロファージは、細菌やウイルスなどの病原体を食べることで、体内から排除する「食細胞」としても知られています。

マクロファージは、機能によって主にM1マクロファージとM2マクロファージに分類されます。M1マクロファージは、炎症反応を促進し、病原体やがん細胞の排除に働く一方、M2マクロファージは、炎症反応を抑制し、組織の修復やリモデリングを促進します。

M2マクロファージは、さまざまな疾患や状態で重要な役割を果たしています。例えば、慢性炎症や自己免疫疾患、アレルギー、感染症、がんなどの病気において、炎症を抑えることで症状の緩和や組織の修復を促進することがあります。しかし、一部の病気では、M2マクロファージが過剰に活性化されることで、病気の進行を促すこともあります。

近年、M2マクロファージを標的とした治療法の開発が進められています。例えば、がん治療においては、M2マクロファージががん細胞の増殖や転移を助ける働きを抑えることで、がんの進行を遅らせることが期待されています。また、慢性炎症性疾患や自己免疫疾患においては、M2マクロファージの抗炎症作用を利用した治療が検討されています。

どういう結果が得られたか?

この論文の結果は、間葉系幹細胞/間質細胞(MSC)から時間の経過とともに放出されるエクソソーム(MSC-sEVs)が、脊髄損傷(SCI)の実験モデルにおける機能回復の改善につながる一連の細胞応答を誘発することを示唆されました。これらのエクソソームはM2マクロファージのに取り込まれ、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)の発現が増加し、続いてTGF-β受容体と多数の脊髄損傷周囲の微小血管系の機能に関するタンパク質がアップレギュレーションされ、最終的に脊髄微小血管の機能安定化につながりました。MSC単回注射と同様の治療効果を得るには、MSC-SEVを3日間にわたって分割投与する必要がありました。分割されたMSC-エクソソームの静注は、M2マクロファージマーカーの発現増加、TGF-β、TGF-β受容体、微小血管系の機能に関するタンパク質のアップレギュレーション、脊髄微小血管の透過性の低下など、複数のパラメーターに対するMSC細胞単回投与の効果を模倣しました。 

参考;脊髄損傷周囲の微小血管(血液脊髄関門)の障害は、脊髄損傷における二次損傷に関連していると考えられている。

赤逆三角がエクソソーム分割投与組。青丸がMSC細胞投与群、緑三角がエクソソーム単回投与群、グレー四角が何も治療を受けていないラット。同じ量のエクソソームを投与する際には、単回等よりも、3日に分割して投与したほうが、治療効果が高かった。エクソソーム分割投与によって、細胞療法と同じ効果が得られている。エクソソーム療法は、細胞療法より安全性や発展性が高いため、今後の開発に期待がもてる。 

この研究のLimitationは?

この研究はラットを対象に実施されたもので、その結果をヒトに当てはめることができるかどうかは不明です。 また、MSC-エクソソームの治療効果の根底にあるメカニズムは完全には解明されておらず、さらなる調査が必要です。 具体的には、MSC-エクソソーム投与の最適な用量とタイミングを決定する必要があります。 また、MSC-エクソソーム治療がSCIの回復に及ぼす長期的な影響と潜在的な副作用を評価する必要がある。 この研究では、オリゴデンドロサイトやニューロンなど、脊髄損傷Iに関与する他の細胞タイプに対するMSC-エクソソームの影響は調査されていません。

この研究の今後は?

MSC-エクソソームの投与量や投与方法の改善が必要です。追加注射または浸透圧ポンプ送達により治療期間を延長することで、さらに回復が促進されるかどうかを判断するためのさらなる研究が必要でしょう。また、MSCエクソソームがマクロファージの機能にどのように影響するかを理解するためのさらなるin vitroと in vivoの研究 も必要となってくるでしょう。

感想

MSC細胞療法は歴史があり、多くの基礎研究がなされています。臨床応用も進んできています。しかし、その治療メカニズムははっきりしていません。今回の論文では、投与されたMSC細胞が体内に移植された後に、エクソソームを介して、治療効果を示している可能性が示唆されました。また、エクソソームを外から静注するこで、同様の治療効果が得られたということは、MSCエクソソーム自体に治療効果を発揮する何かしらが含まれており、エクソソーム自体が新規治療薬になりうることを示唆しています。今後は、このエクソソームには何が含まれ、脊髄損傷部位周囲に存在するマクロファージ取り込まれてから、どのうよな分子的変化を起こすのか、さらなる研究結果が待たれます。 

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