脊髄損傷 年齢によって免疫応答が違う!?

最新論文

本日紹介する論文はこちら。 

まずは

Salvador, A.F.M., et al., 2023. Age-dependent immune and lymphatic responses after spinal cord injury. Neuron.

https://www.cell.com/neuron/pdf/S0896-6273(23)00296-9.pdf

言葉の説明

ミクログリア 

ミクログリアとは、中枢神経系に存在する免疫細胞の一種で、脳や脊髄に存在する小さな細胞です。主な役割は、神経細胞の老廃物や異物を取り除くことや、神経系における炎症反応の調節などです。また、神経発生やシナプスの形成にも関与していることが分かっています。最近では、ミクログリアが神経系の疾患の発症・進行にも関与していることが注目されています。

骨髄系細胞

骨髄系細胞とは、骨髄で生成され、血液や免疫系などに分化する細胞群のことを指します。骨髄系細胞には、造血幹細胞、リンパ球前駆細胞、単球前駆細胞、赤血球前駆細胞、血小板前駆細胞などが含まれます。

造血幹細胞は、骨髄内に存在する最も原始的な細胞で、成熟した血液細胞に分化する能力を持ちます。リンパ球前駆細胞は、リンパ球に分化する細胞、単球前駆細胞は、単球や樹状細胞に分化する細胞、赤血球前駆細胞は、赤血球に分化する細胞、血小板前駆細胞は、血小板に分化する細胞です。

これらの骨髄系細胞は、体内で常に新しい血液細胞を生成しており、健康な体を維持するために不可欠な役割を果たしています。

RNAシーケンシング

RNAシーケンシングとは、RNAを塩基配列として解析する手法のことです。RNAは、遺伝情報をDNAから転写された分子であり、細胞内でタンパク質合成に関わるなど、重要な役割を持っています。RNAシーケンシングは、RNAから塩基配列を決定することにより、どの遺伝子が発現しているか、また、どの程度発現しているかを解析することができます。

RNAシーケンシングは、高速な塩基配列決定技術の発展により、高速で大量のRNA情報を得ることができるようになりました。そのため、細胞の多様性や疾患のメカニズム解明など、多くの生命科学の分野で利用されています。また、ゲノム編集や遺伝子治療など、遺伝子操作技術の開発にも欠かせない手法です。

単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-Seq)

単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-Seq)は、一つの細胞からRNAを取り出し、そのRNAの塩基配列を決定することで、その細胞がどの遺伝子を発現しているかを解析する手法です。従来のRNAシーケンシングは、多数の細胞からRNAを抽出して解析する方法でしたが、scRNA-Seqでは、個々の細胞からRNAを取り出し、細胞ごとの遺伝子発現パターンを解析することができます。

scRNA-Seqは、従来のRNA解析では見つけることのできなかった細胞間の発現の違いを解析することができるため、細胞の多様性や発生、病気の発症メカニズムの解明に貢献しています。また、がん細胞や免疫細胞の研究においても、より高い分解能で細胞の機能や状態を解析することができるため、今後ますます重要な手法となっていくと考えられています

中枢神経系におけるリンパ管 

中枢神経系におけるリンパ管は、脳と脊髄の免疫機能や老廃物の排出を担う重要な役割を持っています。従来、中枢神経系にはリンパ管が存在しないとされていましたが、近年の研究により、脳内にもリンパ管様の構造が存在することが明らかになっています。

これらのリンパ管は、脳脊髄液(CSF)と関連が深く、特に脳の髄膜と呼ばれる部分に存在しています。髄膜リンパ管とも呼ばれるこの構造は、免疫細胞やタンパク質、代謝産物などの脳内の老廃物を回収し、それらをリンパ系に送り出す役割を果たしています。

中枢神経系におけるリンパ管の発見は、脳の免疫機能や神経疾患の研究において画期的なものとされており、今後さらなる研究が進められることが期待されています。例えば、アルツハイマー病や多発性硬化症などの神経疾患に対する新たな治療法開発に役立つ可能性があります。

この研究を簡単に説明すると。。

若年および高齢マウスの脊髄損傷(SCI)後の免疫反応を理解することを目的とした研究です。この研究により、若いマウスは、ミクログリア(別の種類の免疫細胞)の活性化状態の変化とともに、脊髄に骨髄系細胞(免疫細胞の一種)が有意に浸潤していることがわかりました。しかし、老齢マウスではこれらの反応が鈍く、老化がSCI後の免疫応答に影響を与えることが示されました。

この研究により、若年マウスと高齢マウスの両方で、病変部位の上部に髄膜リンパ構造(脳と脊髄を取り巻く保護膜である髄膜のリンパ管)が形成されていることもわかりました。SCI後の血管修復を支える上でこれらの構造が果たす役割はこれまで研究されていなかったため、これは興味深い発見です。

研究者らは、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-Seq)を使用して、SCI後の若年および高齢マウスの脊髄および髄膜における個々の細胞の遺伝子発現を分析しました。この技術により、さまざまな免疫細胞集団とその遺伝子発現パターンを特定できます。

この研究のトランスクリプトームデータにより、SCI後の脊髄の骨髄細胞と髄膜のリンパ管内皮細胞(LEC)との間のリンパ管形成シグナル伝達が活性化されていることが予測されました。つまり、脊髄の骨髄細胞が髄膜のLECとシグナルのやり取りを通して、新しいリンパ管の形成を促進している可能性があり、SCI後の血管修復に役立つ可能性があります。

全体として、この研究により、老化がSCI後の免疫反応にどのように影響するかについての手がかりが得られ、血管修復を支援する上での脊髄髄膜の役割が浮き彫りになりました。この知見は、SCIの新しい治療アプローチにつながる可能性があります。

この研究の背景

この論文では、脊髄損傷(SCI)後の回復に対する免疫反応の影響について論じています。炎症は二次傷害の一因となり、回復を妨げる可能性がありますが、炎症の最適な動態は創傷治癒に不可欠です。単球由来のマクロファージと適応免疫細胞、特に自己反応性T細胞は、成長因子を生成し、破片を貪食し、組織環境を変化させ、組織リモデリングに関与し、神経保護を助けるため、修復に重要であることが示されています。この論文は、SCI後の加齢に伴う免疫細胞反応と、傷害関連のリンパ管形成を促進する上での骨髄細胞の役割を調査することを目的としています。

どうやって実験を行ったか?

70kDyn挫傷SCI後に若年群と高齢郡のマイス(ねずみ)を用いて研究がなされています。 病変からCD45+細胞だけをコレクトして、シングルセルRNA-seqなどを行っています。

どういう結果が得られたか?

脊髄挫傷後の加齢により骨髄系細胞の動員に変化が生じ、マクロファージへのケモカイン誘導が増加することがわかりました。この研究では、若年および老齢マウスの脊髄の病変部位からコレクトされたCD45+細胞の単一細胞RNAシーケンシングを複数の時点で採用しました。その結果、SCI後の高齢マウスでは骨髄細胞の浸潤と多様化が損なわれることが示されました。老齢マウスのミクログリアのある特定のサブセットは、定常状態およびSCI後に減少していることもわかりました。さらに、実質に存在する骨髄系細胞と髄膜に存在する骨髄系細胞は、傷害に関連するリンパ管形成を促進していることもわかりました。 

本論文の知見は、脊髄損傷に対する治療的介入の開発に役に立ちます。この研究は、SCIの治療法を設計する際に、加齢に伴う免疫細胞反応の変化を考慮することの重要性を浮き彫りにしています。この結果は、骨髄系細胞を標的とすることがSCI後の回復を促進するための有望なアプローチである可能性を示唆しています。さらに、傷害に関連するリンパ管形成の促進における骨髄細胞の役割に関する研究の結果は、リンパ疾患の治療法の開発にも影響を与える可能性があります。

この研究の貢献は?

この論文の貢献は次のとおりです。

  1. この論文は、脊髄損傷(SCI)後の加齢に伴う免疫細胞反応に関する洞察を提供しています
  2. この研究は、SCIの治療法を設計する際に、加齢に伴う免疫細胞反応の変化を考慮することの重要性を浮き彫りにしています。
  3. この論文は、SCI後の老齢マウスにおける骨髄系細胞の浸潤と多様化の障害を同定しています。
  4. この研究は、骨髄系細胞を標的とすることがSCI後の回復を促進するための有望なアプローチである可能性があることを示唆しています。
  5. この論文は、実質骨髄細胞と髄膜骨髄細胞が傷害関連のリンパ管形成を促進するという証拠を提供しています。

この研究の今後は?

今後の研究では、実質、髄膜、周囲の骨髄などのCNSコンパートメント間の複雑で動的な相互作用に焦点を当てるべきであることを示唆しています。さらに、この研究は、中枢神経系損傷や神経変性疾患においてまだ研究が進んでいない脊髄髄膜に関するさらなる研究の必要性を浮き彫りにしています。

感想

私がもっとも注目している細胞系である骨髄系細胞。免疫と組織修復を担う重要な細胞です。このような形の論文がいつか出るかと思っていましたが、ようやく出てきましたね。sc−RNA-seqを用いた力技論文系ですが、解釈できていない点もまだあるので、精読しようかと思います。 

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